「デザート」で活躍中の漫画家さんに、デビューからこれまでを伺うインタビューシリーズ。
今回、お話を伺ったのは、10月号の別冊ふろく「Pink」で“キス”がテーマの
オムニバス連載『このキスに名前をつけるなら』がスタートした、なかばさとるさん。
新連載のことはもちろん、いい作品を生み出すためにデビュー後も続けているトレーニングなど、
制作の裏側も教えていただきました!
今回、お話を伺ったのは、10月号の別冊ふろく「Pink」で“キス”がテーマの
オムニバス連載『このキスに名前をつけるなら』がスタートした、なかばさとるさん。
新連載のことはもちろん、いい作品を生み出すためにデビュー後も続けているトレーニングなど、
制作の裏側も教えていただきました!
“投稿”は自分の弱点を潰すための絶好のチャンス
ーー「デザート」に投稿することになった経緯から教えてください
就職活動のタイミングで「私は漫画家になる!」と決めて投稿をはじめて、他社の媒体なのですが幸い担当さんもつきました。当時は切ない系のラブストーリーを中心に描いていて、賞をいただいたこともあったのですが、自分のなかでどこか“しっくりいっていない”という感覚があり、悩んでいたんです。
そんな時に、私が少女漫画を描くきっかけでもある、憧れのやまもり三香先生が『うるわしの宵の月』を「デザート」でスタートされて。改めて雑誌を読んでみたら、主人公の世代が幅広かったり、恋愛を主軸にした青春群像劇も掲載されていたりと、ジャンルが多岐にわたっていることがわかって、投稿しようと決めました。
ーーまずは、「DDD(デザート・デビュー・ドリーム)」※への投稿からはじめたんですね
はい、そうです。DDDは毎月実施されていますが、デザート新人まんが大賞は年2回開催。コンスタントに投稿できるDDDに応募したほうが、チャンスが多い気がしたんです。
※毎月15日締め切りで開催されている、編集部主催の月励賞のこと
ーー実際、2021年から2023年にかけて定期的に投稿を重ねられていますが、自分に課したルールなどはあったのでしょうか?
私は最初の投稿で担当さんがついたので、それ以降はとにかく2、3ヶ月に一度は担当さんに作品を提出して、フィードバックをもらって、自分の弱点を潰していくという作業を積極的にしていた気がします。
それに、担当さんが一投稿者である私にも定期的に連絡をくれて、「投稿作の進捗はどう?」と聞いてくれたんですよね。私に限らず、ネームで詰まっても、自分からは相談しにくい投稿者さんは多いんじゃないかなと思います。でも、編集部側から連絡をもらえるので相談がしやすかったですし、“期待してもらえているのかな?”とうれしかったです。それになにより、“担当さんに成長している姿を見せたい!”と思うようになりました。
デビューに向けて、モチベーションを維持し続けられたのは、担当さんのおかげといっても過言ではないかもしれません(笑)。
デビュー前からいまも続けるトレーニングは…?
ーー自分の弱点を克服するために行なった、トレーニングはありますか?
昔からコマ割りに苦手意識があったので、時間がある時はひたすらネームを模写するようにしていましたし、実はいまもしています。
私が模写するのはページをめくったときに思いがけない展開がある、コマ割りが上手な作品が中心で、特に青年誌が多いです。方法は、絵を細かく再現するのではなく、セリフの位置やどんな絵がどの位置に入っているかを読みながら描いて、自分のなかに一度落とし込んでいくようなイメージです。
ーーそれは担当編集者からのアドバイスで始めたことですか?
はい、そうです。私の場合、ストーリーはおもしろくても、読者の方が見たいと思うようなシーンを描けていないという課題がありました。いまも、一度描いたものを読み直して、もっといいコマ割りがないか考えては描き直すということを繰り返しているのですが、納得のいく描写に辿り着くまでのスパンをできるだけ短くすることが大事なので、そのための訓練として行なっています。
また、たとえば映画を観ている時も、被写体に対してカメラの位置がどこにあるか、そこにカメラを置いた理由はなんなのかということを考えるようになりました。そういうことを続けることで、ネームも変わってくるんじゃないかと思います。
担当編集と一緒に勝ち取ったデビュー!
ーー2023年3月開催の、第53回デザート新人まんが大賞に投稿された『卒業、期間限定。』で優秀賞を受賞し、デビューが決まりましたが、この作品はどうやって作っていきましたか?
もともとモノローグを褒めていただけることが多かったこともあって、担当さんとは、“卒業”という後には戻れない瞬間の女の子の恋する気持ちの変遷を、絵と言葉で丁寧に描こうと話した記憶があります。
また、物語の後半でヒロインが好きな子と出かけたときのレシートを見つけるという場面があるのですが、これは担当さんと話していて生まれたシーンです。
担当さんから、「好きな人とのデートのときのレシートって、見返しちゃわない?」と言われて、確かにその感情ってめちゃくちゃ恋だなと思って、お話にも反映しました。自分一人で作っていると、どうしても視点が偏ります。でも、こうやって話すことで話が広がっていく感覚はすごくあります。
また、実は本作の前にデビューを決めるつもりで描いた作品があったのですが、残念ながらデザート新人まんが大賞の選考からは漏れてしまったんです。それで担当さんとも相談して、次は今まで積み上げてきたものを出し切る作品にしようと、しっかり時間をかけて作ったのが『卒業、期間限定。』でした。担当さんと、チームで勝ち取ったデビューだなと思います。
ーー先ほど、モノローグを褒められることが多かったとおっしゃっていましたが、普段から意識されていることはありますか?

(左・中央)『しあわせをゆびさし確認する声が』より。
(右)『卒業、期間限定。』より。
昔から、自分が思っていることを100%言葉にしたいという欲求があって。言葉への関心は高い方かもしれません。いまも壁一面に好きな短歌を貼って、いつでも眺められるようにしています。短い文章のなかに、情景や心情が詰まっている短歌を日頃から摂取することで、「どんな言葉を使えば、どんな印象で物事を伝えられるのか」というインプットができている気がします。

そんな短歌好きな想いを知っていた担当者の提案で、2024年1月号の別冊ふろく「少女漫画×現代短歌」のアンソロジーにも参加。
一方で、私はモノローグを評価してもらえるからこそ、言葉に頼りがちなところがあります。漫画は、絵だけでときめかせることも大事だと思うので、いまは入れたいなと思うモノローグやセリフがあってもできるだけ短く削って、代わりに絵の説得力を上げることを意識するようにしています。
ーーなかばさんにとって、担当編集者とはどういう存在ですか?
私の想いを濾過してくれる存在です。漫画を描くとき、最初は自己満足の塊のような内容になってしまいがちなのですが、担当さんが入ることで不要な部分が削ぎ落とされて、自分が描きたいことだけが残っていくような感覚があります。
ーー「デザート」の編集者の印象はどうでしょうか?
作品をもっといいものにしようという熱意がすごくて、どなたも「自分たちをアイデアの壁打ちに使っていいよ」と言ってくれるのが、本当にありがたいです。そして優しい(笑)。提出したものについて、まずはめちゃくちゃ褒めてくれるんです。だけど、改善点もしっかり伝えてくれるので、モチベーションがあがって次に向けて前向きな気持ちになれます。投稿作品に対してもらった講評はいまも飾って、いつでも読み返せるようにしています。
新連載のテーマに選んだのは、苦手だった“キス”!?
ーーデビューから2年、いよいよ初の連載作品『このキスに名前をつけるなら』がスタートしました。本作は“自分史上最高にロマンチックなキス”がテーマのオムニバス連載ですが、どうやって進めていったのでしょうか?
実は、私はキスシーンへのハードルが高くて…。これまで描いてきた読み切りの主人公たちは、ほとんどキスをしてないんです。ただ、だからこそ「ここで一度、殻を破るためにも本気でキスを描いてみようか」と、担当さんから提案があって、今回のテーマが決まりました。
ーー次のステージに進むための挑戦でもあるということなんですね…! キスシーンに苦手意識があったとのことですが、1話目の『アクシデントキス』は読み切りながら4回もキスシーンが出てきますよね?
そうなんです(笑)。どのタイミングでキスするのがいいか、すごく考えたのですが、まずは冒頭4、5ページ以内でさせようと自分のなかで縛りをつけました。それで、一つ目のキスシーンを乗り越えたら、あとは意外にもすんなりと描けました。

1話目の『アクシデントキス』は、タイトル通り“不慮の事故キス”から始まるラブストーリー。
残り3つがどんなキスシーンなのかは、ここからチェック!
ーー制作過程で、難航したポイントはありましたか?
すんなり決まったことはほぼ一つもなかった気がしますが、なかでもやっぱりネームですね。『アクシデントキス』が完成する前に、最低でも4回は一から描き直していると思います。
ーーそれは、すべてボツにしたということですか?
はい、全ボツです(笑)。ここで止まっちゃうと、いいものは出てこないので、一度すべてを更地にして考え直すようにしていました。
ーー一度考えたものを、まっさらな状態にするのは容易ではない気がするのですが?
そうですね。ただ、一度行き詰まったネームの一部を生かしながら進めようとすると、どうしても余計なものが残っていっちゃうんですよね。それに、気に入っている場面を残しながら進めると、結果的に“そのシーンを描くために、主人公たちが恋をしている物語”になってしまうんです。そうではなく、恋をしている2人がいるからこそ生まれる、オリジナリティのあるシーンを描くべきだと思っています。
担当編集:一度すべてを0にしても、次に前作を上回る魅力的な企画が出てくるところが、なかばさんの本当にすごいところだと思います。
ーーそれには、日頃からかなりインプットの作業もされてそうですが、意識的にしていることはありますか?
私はもともとホラー漫画が大好きなのですが、“いま、お化けに襲われている2人が恋をしたら、どんな会話をするんだろう?”ということを妄想する癖が、昔からありました。もともとわりと恋愛脳であることと、好きなホラーをかけあわせて、追い詰められた人間の心理を恋愛に置き換える訓練を、子供の頃からしていることが、作品作りにつながっているような気がします。
私が描いているのは少女漫画なのに、ホラー?と思われる方もいるかもしれません。もちろん恋愛系の漫画を学ぶことも大事だと思うのですが、その主人公たちの恋の正解はすでに作品のなかに描かれているはずなんです。だから、“発想”の部分のインプットを恋愛系の作品以外からするというのも、大切なんじゃないかなと思います。
ーーすごくおもしろいお話ですね。なかばさんが生み出す作品が、さらに楽しみになりました! 「デザート」には、現在(2026年10月24日時点)、2話目まで掲載されている『このキスに名前をつけるなら』ですが、ぜひ見どころをお聞かせください
まずはやっぱりキスシーンです! どのキスシーンも、考え抜いて完成したので注目していただけたらうれしいです。また、もう一つのポイントは背景です。特に2話目は、このヒーローなら教室にどんなものを置くかな…ということを想像しながら描いたので、ぜひ隅々までご覧ください。
ーーこれから漫画家を目指す方へのアドバイスをいただけますでしょうか
まずは最後まで描き上げて、必ず誰かに読んでもらうのがいいと思います。
私はもともと、自分のなかではエッジの効いた少女漫画を描いていると思っていたんです。でも、「デザート」に投稿して言われたことは、「あなたの作品は王道だし、王道が向いていると思う」ということでした(笑)。ただ、そこで自分の感覚のズレに気づけたし、目指すべき方向も定まりました。
作品を誰かに見せるのは恥ずかしいし、最初はすごく勇気がいると思うんです。でも、どんなにこわくても評価をもらうことで、必ず作品は良くなっていくと思います。そして、初めて投稿するなら「デザート」は本当におすすめです! なぜなら、めちゃくちゃ優しいから(笑)。それに、必ず改善すべきポイントも教えてくれるので、自分の力をしっかり伸ばせると思います。
ーー最後になりますが、読者の方へのメッセージもお願いします!
『このキスに名前をつけるなら』は、私がいままであまり描いてこなかった、“キス”に真っ向から挑戦したオムニバスです。いま残り3話を進めているところですが、主人公たちがどんなキスをするのか、私自身も楽しみです。読者のみなさんに、ページをめくるほど「いいことがあった!」と思っていただけるような作品になるように頑張りますので、最後まで読んでいただけたらうれしいです!
ーー今日はありがとうございました!
『このキスに名前をつけるなら』作品紹介ページ
ーー「デザート」に投稿することになった経緯から教えてください
就職活動のタイミングで「私は漫画家になる!」と決めて投稿をはじめて、他社の媒体なのですが幸い担当さんもつきました。当時は切ない系のラブストーリーを中心に描いていて、賞をいただいたこともあったのですが、自分のなかでどこか“しっくりいっていない”という感覚があり、悩んでいたんです。
そんな時に、私が少女漫画を描くきっかけでもある、憧れのやまもり三香先生が『うるわしの宵の月』を「デザート」でスタートされて。改めて雑誌を読んでみたら、主人公の世代が幅広かったり、恋愛を主軸にした青春群像劇も掲載されていたりと、ジャンルが多岐にわたっていることがわかって、投稿しようと決めました。
ーーまずは、「DDD(デザート・デビュー・ドリーム)」※への投稿からはじめたんですね
はい、そうです。DDDは毎月実施されていますが、デザート新人まんが大賞は年2回開催。コンスタントに投稿できるDDDに応募したほうが、チャンスが多い気がしたんです。
※毎月15日締め切りで開催されている、編集部主催の月励賞のこと
ーー実際、2021年から2023年にかけて定期的に投稿を重ねられていますが、自分に課したルールなどはあったのでしょうか?
私は最初の投稿で担当さんがついたので、それ以降はとにかく2、3ヶ月に一度は担当さんに作品を提出して、フィードバックをもらって、自分の弱点を潰していくという作業を積極的にしていた気がします。
それに、担当さんが一投稿者である私にも定期的に連絡をくれて、「投稿作の進捗はどう?」と聞いてくれたんですよね。私に限らず、ネームで詰まっても、自分からは相談しにくい投稿者さんは多いんじゃないかなと思います。でも、編集部側から連絡をもらえるので相談がしやすかったですし、“期待してもらえているのかな?”とうれしかったです。それになにより、“担当さんに成長している姿を見せたい!”と思うようになりました。
デビューに向けて、モチベーションを維持し続けられたのは、担当さんのおかげといっても過言ではないかもしれません(笑)。
デビュー前からいまも続けるトレーニングは…?
ーー自分の弱点を克服するために行なった、トレーニングはありますか?
昔からコマ割りに苦手意識があったので、時間がある時はひたすらネームを模写するようにしていましたし、実はいまもしています。
私が模写するのはページをめくったときに思いがけない展開がある、コマ割りが上手な作品が中心で、特に青年誌が多いです。方法は、絵を細かく再現するのではなく、セリフの位置やどんな絵がどの位置に入っているかを読みながら描いて、自分のなかに一度落とし込んでいくようなイメージです。
ーーそれは担当編集者からのアドバイスで始めたことですか?
はい、そうです。私の場合、ストーリーはおもしろくても、読者の方が見たいと思うようなシーンを描けていないという課題がありました。いまも、一度描いたものを読み直して、もっといいコマ割りがないか考えては描き直すということを繰り返しているのですが、納得のいく描写に辿り着くまでのスパンをできるだけ短くすることが大事なので、そのための訓練として行なっています。
また、たとえば映画を観ている時も、被写体に対してカメラの位置がどこにあるか、そこにカメラを置いた理由はなんなのかということを考えるようになりました。そういうことを続けることで、ネームも変わってくるんじゃないかと思います。
担当編集と一緒に勝ち取ったデビュー!
ーー2023年3月開催の、第53回デザート新人まんが大賞に投稿された『卒業、期間限定。』で優秀賞を受賞し、デビューが決まりましたが、この作品はどうやって作っていきましたか?
もともとモノローグを褒めていただけることが多かったこともあって、担当さんとは、“卒業”という後には戻れない瞬間の女の子の恋する気持ちの変遷を、絵と言葉で丁寧に描こうと話した記憶があります。
また、物語の後半でヒロインが好きな子と出かけたときのレシートを見つけるという場面があるのですが、これは担当さんと話していて生まれたシーンです。
担当さんから、「好きな人とのデートのときのレシートって、見返しちゃわない?」と言われて、確かにその感情ってめちゃくちゃ恋だなと思って、お話にも反映しました。自分一人で作っていると、どうしても視点が偏ります。でも、こうやって話すことで話が広がっていく感覚はすごくあります。
また、実は本作の前にデビューを決めるつもりで描いた作品があったのですが、残念ながらデザート新人まんが大賞の選考からは漏れてしまったんです。それで担当さんとも相談して、次は今まで積み上げてきたものを出し切る作品にしようと、しっかり時間をかけて作ったのが『卒業、期間限定。』でした。担当さんと、チームで勝ち取ったデビューだなと思います。
ーー先ほど、モノローグを褒められることが多かったとおっしゃっていましたが、普段から意識されていることはありますか?

(右)『卒業、期間限定。』より。
昔から、自分が思っていることを100%言葉にしたいという欲求があって。言葉への関心は高い方かもしれません。いまも壁一面に好きな短歌を貼って、いつでも眺められるようにしています。短い文章のなかに、情景や心情が詰まっている短歌を日頃から摂取することで、「どんな言葉を使えば、どんな印象で物事を伝えられるのか」というインプットができている気がします。

一方で、私はモノローグを評価してもらえるからこそ、言葉に頼りがちなところがあります。漫画は、絵だけでときめかせることも大事だと思うので、いまは入れたいなと思うモノローグやセリフがあってもできるだけ短く削って、代わりに絵の説得力を上げることを意識するようにしています。
ーーなかばさんにとって、担当編集者とはどういう存在ですか?
私の想いを濾過してくれる存在です。漫画を描くとき、最初は自己満足の塊のような内容になってしまいがちなのですが、担当さんが入ることで不要な部分が削ぎ落とされて、自分が描きたいことだけが残っていくような感覚があります。
ーー「デザート」の編集者の印象はどうでしょうか?
作品をもっといいものにしようという熱意がすごくて、どなたも「自分たちをアイデアの壁打ちに使っていいよ」と言ってくれるのが、本当にありがたいです。そして優しい(笑)。提出したものについて、まずはめちゃくちゃ褒めてくれるんです。だけど、改善点もしっかり伝えてくれるので、モチベーションがあがって次に向けて前向きな気持ちになれます。投稿作品に対してもらった講評はいまも飾って、いつでも読み返せるようにしています。
新連載のテーマに選んだのは、苦手だった“キス”!?
ーーデビューから2年、いよいよ初の連載作品『このキスに名前をつけるなら』がスタートしました。本作は“自分史上最高にロマンチックなキス”がテーマのオムニバス連載ですが、どうやって進めていったのでしょうか?
実は、私はキスシーンへのハードルが高くて…。これまで描いてきた読み切りの主人公たちは、ほとんどキスをしてないんです。ただ、だからこそ「ここで一度、殻を破るためにも本気でキスを描いてみようか」と、担当さんから提案があって、今回のテーマが決まりました。
ーー次のステージに進むための挑戦でもあるということなんですね…! キスシーンに苦手意識があったとのことですが、1話目の『アクシデントキス』は読み切りながら4回もキスシーンが出てきますよね?
そうなんです(笑)。どのタイミングでキスするのがいいか、すごく考えたのですが、まずは冒頭4、5ページ以内でさせようと自分のなかで縛りをつけました。それで、一つ目のキスシーンを乗り越えたら、あとは意外にもすんなりと描けました。

残り3つがどんなキスシーンなのかは、ここからチェック!
ーー制作過程で、難航したポイントはありましたか?
すんなり決まったことはほぼ一つもなかった気がしますが、なかでもやっぱりネームですね。『アクシデントキス』が完成する前に、最低でも4回は一から描き直していると思います。
ーーそれは、すべてボツにしたということですか?
はい、全ボツです(笑)。ここで止まっちゃうと、いいものは出てこないので、一度すべてを更地にして考え直すようにしていました。
ーー一度考えたものを、まっさらな状態にするのは容易ではない気がするのですが?
そうですね。ただ、一度行き詰まったネームの一部を生かしながら進めようとすると、どうしても余計なものが残っていっちゃうんですよね。それに、気に入っている場面を残しながら進めると、結果的に“そのシーンを描くために、主人公たちが恋をしている物語”になってしまうんです。そうではなく、恋をしている2人がいるからこそ生まれる、オリジナリティのあるシーンを描くべきだと思っています。
担当編集:一度すべてを0にしても、次に前作を上回る魅力的な企画が出てくるところが、なかばさんの本当にすごいところだと思います。
ーーそれには、日頃からかなりインプットの作業もされてそうですが、意識的にしていることはありますか?
私はもともとホラー漫画が大好きなのですが、“いま、お化けに襲われている2人が恋をしたら、どんな会話をするんだろう?”ということを妄想する癖が、昔からありました。もともとわりと恋愛脳であることと、好きなホラーをかけあわせて、追い詰められた人間の心理を恋愛に置き換える訓練を、子供の頃からしていることが、作品作りにつながっているような気がします。
私が描いているのは少女漫画なのに、ホラー?と思われる方もいるかもしれません。もちろん恋愛系の漫画を学ぶことも大事だと思うのですが、その主人公たちの恋の正解はすでに作品のなかに描かれているはずなんです。だから、“発想”の部分のインプットを恋愛系の作品以外からするというのも、大切なんじゃないかなと思います。
ーーすごくおもしろいお話ですね。なかばさんが生み出す作品が、さらに楽しみになりました! 「デザート」には、現在(2026年10月24日時点)、2話目まで掲載されている『このキスに名前をつけるなら』ですが、ぜひ見どころをお聞かせください
まずはやっぱりキスシーンです! どのキスシーンも、考え抜いて完成したので注目していただけたらうれしいです。また、もう一つのポイントは背景です。特に2話目は、このヒーローなら教室にどんなものを置くかな…ということを想像しながら描いたので、ぜひ隅々までご覧ください。
ーーこれから漫画家を目指す方へのアドバイスをいただけますでしょうか
まずは最後まで描き上げて、必ず誰かに読んでもらうのがいいと思います。
私はもともと、自分のなかではエッジの効いた少女漫画を描いていると思っていたんです。でも、「デザート」に投稿して言われたことは、「あなたの作品は王道だし、王道が向いていると思う」ということでした(笑)。ただ、そこで自分の感覚のズレに気づけたし、目指すべき方向も定まりました。
作品を誰かに見せるのは恥ずかしいし、最初はすごく勇気がいると思うんです。でも、どんなにこわくても評価をもらうことで、必ず作品は良くなっていくと思います。そして、初めて投稿するなら「デザート」は本当におすすめです! なぜなら、めちゃくちゃ優しいから(笑)。それに、必ず改善すべきポイントも教えてくれるので、自分の力をしっかり伸ばせると思います。
ーー最後になりますが、読者の方へのメッセージもお願いします!
『このキスに名前をつけるなら』は、私がいままであまり描いてこなかった、“キス”に真っ向から挑戦したオムニバスです。いま残り3話を進めているところですが、主人公たちがどんなキスをするのか、私自身も楽しみです。読者のみなさんに、ページをめくるほど「いいことがあった!」と思っていただけるような作品になるように頑張りますので、最後まで読んでいただけたらうれしいです!
ーー今日はありがとうございました!






